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距離を測る(座標系な意味で)。
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距離を測る(座標系な意味で)。 (2017/3/5 10:27:48)
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距離を測る(座標系な意味で)。 (2017/3/5 10:27:48)
注意:大会に出ない、またはクロカンの正式な記録飛行を狙わない大多数のパイロットにはほぼどうでも良い覚書程度の記事です。
先日、なんでそこに行き着いたのかさっぱり覚えてないんですが、たまたま最新(2017/01)の FAI スポーティングコードを眺めたら、どうもFAIはFAI球体(FAI Sphere)を捨てて?WGS84楕円体を公式の距離測定に採用するように変更したんですね。
こんな重大な変更は CIVL でも議題に上がってる筈、と思って議事録をみたら猶予期間を設けるようですね。
Plenary Minutes より引用
"The last discussion was about changing the distance formula from FAI sphere to WGS84, which
is required by the FAI general section. This cannot be done on a general basis today for hanggliding, as the majority of the pilots in the next Cat 1 event will still be stuck with older FAI sphere only instruments (Flytec 6030's), while it is viable for paragliding where the access to newer instruments makes this less of a problem. The timeframe for changing to SeeYou/GAP scoring from May 2018 would include the change to WGS84, and as such it should be a natural point to introduce this change for both hang gliding and paragliding in the rules regarding distance calculations. If possible, we could implement WGS84 as an option in FS in addition the FAI Sphere from now on, and this option could be used where appropriate in PG competitions with large turnpoints."
引用終わり
簡単に言うと、ハングでは FAI 球体しか扱えない 6030/Compeo+ がメインロガーとしてまだまだ主流なのですぐに切り替えられない(パラは選択肢があるのでそこまで問題ではない)。スコアリングプログラム側では WGS84 をオプションで選べるようにして、パラでは即採用出来るようにすることも検討する。ということです。
これがどれほどのインパクトなのか、一応自分なりに理解したことをメモとして残しておきます。(注:ここに書かれた事の正確性について一切の保証はできないので、正確な情報を知りたい場合には原典に当たるなり、JHF 各競技委員会に照会するなりして下さい。)
尚、Paraglidingforum.com の このスレッド がとても参考になりました。
どちらも地球に近似したモデルですが、WGS84 の方がより実際の地球の形状に近い(でなければわざわざ楕円モデルなど作らない)です。
何故 FAI 球体が存在するのかといえば、真球だと距離計算が圧倒的に簡単だからです。楕円体だと一発で簡単に求める計算法がないので、旧世代のプロセッサでは演算量に対応できなかったか、あるいはよい近似計算アルゴリズムがなかったか、多分どちらかだと思います。
じゃあ現在では簡単なのかというと、そうでもないようなのですが。
実際に FAIのサイト で比べることが出来ます。
Lat 1: 00:00.00 Long 1: 000:00.00
Lat 2: 90:00.00 Long 2: 000:00.00
と入力して緯度周りの外周の 1/4 の距離が出ます。
Distance Units: Kilometers
で、Earth modelを FAI sphere と WGS84 でそれぞれ計算してみます。
FAI sphere: 10007.543 km
WGS84: 10001.966 km
FAI sphere が 0.056% 長くなっています。10kmで約6mなので、まあ大したことはありません。
同様に経度周りを計算してみます。
Lat 1: 00:00.00 Long 1: 000:00.00
Lat 2: 00:00.00 Long 2: 090:00.00
FAI sphere: 10007.543 km
WGS84: 10018.754 km
当たり前ですが、FAI 球体の場合は緯度周りと同じ距離です。
一方 WGS84 の距離はFAI 球体よりも約 0.11% 長くなっています。10 km で約 11m、ちょっと気になるけれども殆どの場合問題にはならないでしょう。
以下の例では、2点間の距離を大雑把に 30km 程度になるように入力値を設定して、南北/東西方向の距離を較べてみます。
Lat 1: 51:00.00 Long 1: 000:00.00
Lat 2: 51:16.00 Long 2: 000:00.00
FAI sphere: 29.652 km
WGS84: 29.666 km
誤差: 約15m
東西方向
Lat 1: 51:00.00 Long 1: 000:00.00
Lat 2: 51:00.00 Long 2: 000:26.00
FAI sphere: 30.323 km
WGS84: 30.419 km
誤差: 約96m
Lat 1: 36:00.00 Long 1: 000:00.00
Lat 2: 36:16.00 Long 2: 000:00.00
FAI sphere: 29.652 km
WGS84: 29.590 km
誤差: 約62m
東西方向
Lat 1: 36:00.00 Long 1: 000:00.00
Lat 2: 36:00.00 Long 2: 000:20.00
FAI sphere: 29.986 km
WGS84: 30.054 km
誤差: 約68m
Lat 1: 15:00.00 Long 1: 000:00.00
Lat 2: 15:16.00 Long 2: 000:00.00
FAI sphere: 29.652 km
WGS84: 29.507 km
誤差: 約145m
東西方向
Lat 1: 15:00.00 Long 1: 000:00.00
Lat 2: 15:00.00 Long 2: 000:16.70
FAI sphere: 29.895 km
WGS84: 29.935 km
誤差: 約40m
大雑把に言うと:
となり、ハング、パラが飛ぶスケールでの距離では影響がそれなりにありそう、ということが分かります。
具体的には、ビッグシリンダーで 30km が設定されると、例えばブラジルやメキシコにいる場合、シリンダー外周から中心までの距離が計算の座標系によって 150m、往復で 300m の違いとなります。
この影響が実際に 2014 年頃にパラのメキシコの PWC で以下のような例がありました。
当時ほぼ全てのバリオは FAI 球体で計算した距離を表示していたが、唯一 Flymaster だけは WGS84 で計算していた。PWC では Flymaster が選手全員に支給されてスコアリングに使用された。Flytec をメインのナビゲーションに使っていたパイロットは、31km のシリンダーで Flymaster が手前でシリンダーに入った音を鳴らすのを聞きながら、Flytec がシリンダーに入ったと合図するまでさらに 150m 進んだ。なんでこの違いがあるのかわかっていれば往復 300m のシンクを飛ばずに済んだ。。
(その後 Flymaster はファームウェアのアップデートで FAI 球体にも対応した。)
何故 FAI は WGS84 に切り替えるのか?
あくまで想像ですが、距離飛行や速度記録を念頭に置いて、より正確な距離によって公式記録を公認したい、ということなのだと思います。以前は写真判定だったので距離飛行の場合は既存の記録を1%以上上回らなければならないというルールでしたが、現在はGPSの精度を反映して100m 以上の更新に変更されています。上述のように、何百km のフライトで 100m のスケールは FAI 球体を用いることによる誤差によっても容易に生ずる可能性があるため、放置しておけなかったのでしょう。
ハング競技への影響?
計算アルゴリズムについては全く詳しくありませんが、メルカトル図法のように平面投影したモデルで計算する方法だと、ハング/パラで飛ぶ範囲の距離では比較的シンプル且つかなり正確に計算できるようで、2014 の CIVL の総会で提案されたようです。これに近いアルゴリズムがフライト機器に搭載されるアプリに採用される(または既に採用されている)と思われます。ソフトウェアの開発がアクティブな機器であれば WGS84 での距離計算に対応できる道筋がついた、ということなのでしょう。
実際の所上述の Flymaster のように対応済のバリオもあるし。
Flytec も無くなってしまった現在 6030 のファームの今後のアップデートは考えにくいので、ビッグシリンダーが主流の環境では WGS84 完全移行とともにトップカテゴリーのコンペから消える日が来るのは避けられないんでしょうね。。
補足1:
ブラジリアを例に出しましたが、今年の世界選手権に影響があるという話ではありません(おそらくFAI球体が使われると思いますが、万が一これを読んでる関係者で気になる方がいたら自分で確認してください)。
補足2:
全ての GPS 機器は標準設定で WGS84 系での座標を表示します(日本向けモデルだと TOKYO2000 とかあるかもしれませんが)。但し、距離計算は WGS84 楕円体に基いているとは限りません。特にフライト用ではない iOS/Android アプリなどの場合、真球で計算していることが多いと想像されます。
補足3:
SeeYou でも距離計算でモデルが選べる ということを、今回初めて知りました。標準は WGS84 に設定されているから他のアプリでの計算結果と微妙に合わなかったのか。。。(注:ターンポイントのシリンダーのサイズもグライダー用に 500m なので、ここでも違いが出ます)。
先日、なんでそこに行き着いたのかさっぱり覚えてないんですが、たまたま最新(2017/01)の FAI スポーティングコードを眺めたら、どうもFAIはFAI球体(FAI Sphere)を捨てて?WGS84楕円体を公式の距離測定に採用するように変更したんですね。
こんな重大な変更は CIVL でも議題に上がってる筈、と思って議事録をみたら猶予期間を設けるようですね。
Plenary Minutes より引用
"The last discussion was about changing the distance formula from FAI sphere to WGS84, which
is required by the FAI general section. This cannot be done on a general basis today for hanggliding, as the majority of the pilots in the next Cat 1 event will still be stuck with older FAI sphere only instruments (Flytec 6030's), while it is viable for paragliding where the access to newer instruments makes this less of a problem. The timeframe for changing to SeeYou/GAP scoring from May 2018 would include the change to WGS84, and as such it should be a natural point to introduce this change for both hang gliding and paragliding in the rules regarding distance calculations. If possible, we could implement WGS84 as an option in FS in addition the FAI Sphere from now on, and this option could be used where appropriate in PG competitions with large turnpoints."
引用終わり
簡単に言うと、ハングでは FAI 球体しか扱えない 6030/Compeo+ がメインロガーとしてまだまだ主流なのですぐに切り替えられない(パラは選択肢があるのでそこまで問題ではない)。スコアリングプログラム側では WGS84 をオプションで選べるようにして、パラでは即採用出来るようにすることも検討する。ということです。
これがどれほどのインパクトなのか、一応自分なりに理解したことをメモとして残しておきます。(注:ここに書かれた事の正確性について一切の保証はできないので、正確な情報を知りたい場合には原典に当たるなり、JHF 各競技委員会に照会するなりして下さい。)
尚、Paraglidingforum.com の このスレッド がとても参考になりました。
FAI 球体とWGS84 楕円体の違い。
その名の通りなんですが、FAI 球体は完全な球体であるのに対し、WGS84 は少し南北方向に潰れた、ミカンのような形の楕円体です( Wikipedia より):どちらも地球に近似したモデルですが、WGS84 の方がより実際の地球の形状に近い(でなければわざわざ楕円モデルなど作らない)です。
何故 FAI 球体が存在するのかといえば、真球だと距離計算が圧倒的に簡単だからです。楕円体だと一発で簡単に求める計算法がないので、旧世代のプロセッサでは演算量に対応できなかったか、あるいはよい近似計算アルゴリズムがなかったか、多分どちらかだと思います。
じゃあ現在では簡単なのかというと、そうでもないようなのですが。
外周の違い。
FAI球体は真球なので、緯度周り、経度周りとも距離が等しくなりますが、WGS84では経度周りの方が距離が長くなります。実際に FAIのサイト で比べることが出来ます。
Lat 1: 00:00.00 Long 1: 000:00.00
Lat 2: 90:00.00 Long 2: 000:00.00
と入力して緯度周りの外周の 1/4 の距離が出ます。
Distance Units: Kilometers
で、Earth modelを FAI sphere と WGS84 でそれぞれ計算してみます。
FAI sphere: 10007.543 km
WGS84: 10001.966 km
FAI sphere が 0.056% 長くなっています。10kmで約6mなので、まあ大したことはありません。
同様に経度周りを計算してみます。
Lat 1: 00:00.00 Long 1: 000:00.00
Lat 2: 00:00.00 Long 2: 090:00.00
FAI sphere: 10007.543 km
WGS84: 10018.754 km
当たり前ですが、FAI 球体の場合は緯度周りと同じ距離です。
一方 WGS84 の距離はFAI 球体よりも約 0.11% 長くなっています。10 km で約 11m、ちょっと気になるけれども殆どの場合問題にはならないでしょう。
緯度による違い。
ではあまり気にする必要は無いのか?という気もしますが、実はこの誤差の程度が緯度によって大きく変わってきます。以下の例では、2点間の距離を大雑把に 30km 程度になるように入力値を設定して、南北/東西方向の距離を較べてみます。
例1:イギリス(緯度 51度):
南北方向Lat 1: 51:00.00 Long 1: 000:00.00
Lat 2: 51:16.00 Long 2: 000:00.00
FAI sphere: 29.652 km
WGS84: 29.666 km
誤差: 約15m
東西方向
Lat 1: 51:00.00 Long 1: 000:00.00
Lat 2: 51:00.00 Long 2: 000:26.00
FAI sphere: 30.323 km
WGS84: 30.419 km
誤差: 約96m
例2:日本(緯度 36度):
南北方向Lat 1: 36:00.00 Long 1: 000:00.00
Lat 2: 36:16.00 Long 2: 000:00.00
FAI sphere: 29.652 km
WGS84: 29.590 km
誤差: 約62m
東西方向
Lat 1: 36:00.00 Long 1: 000:00.00
Lat 2: 36:00.00 Long 2: 000:20.00
FAI sphere: 29.986 km
WGS84: 30.054 km
誤差: 約68m
例3:ブラジリア(緯度 15度):
南北方向Lat 1: 15:00.00 Long 1: 000:00.00
Lat 2: 15:16.00 Long 2: 000:00.00
FAI sphere: 29.652 km
WGS84: 29.507 km
誤差: 約145m
東西方向
Lat 1: 15:00.00 Long 1: 000:00.00
Lat 2: 15:00.00 Long 2: 000:16.70
FAI sphere: 29.895 km
WGS84: 29.935 km
誤差: 約40m
大雑把に言うと:
- 高緯度ほど南北方向の誤差は小さく、東西方向の誤差は大きくなる。
- また、南北方向の方が東西方向の変化よりも大きい。
- 低緯度での南北方向の誤差は赤道上で最大となり約 0.56%(10km辺り56m)。
- 日本は(偶然)東西/南北の誤差が同じくらい。
-
どちらの座標系が距離が長いかどうかも緯度によって異なる。
となり、ハング、パラが飛ぶスケールでの距離では影響がそれなりにありそう、ということが分かります。
具体的には、ビッグシリンダーで 30km が設定されると、例えばブラジルやメキシコにいる場合、シリンダー外周から中心までの距離が計算の座標系によって 150m、往復で 300m の違いとなります。
この影響が実際に 2014 年頃にパラのメキシコの PWC で以下のような例がありました。
当時ほぼ全てのバリオは FAI 球体で計算した距離を表示していたが、唯一 Flymaster だけは WGS84 で計算していた。PWC では Flymaster が選手全員に支給されてスコアリングに使用された。Flytec をメインのナビゲーションに使っていたパイロットは、31km のシリンダーで Flymaster が手前でシリンダーに入った音を鳴らすのを聞きながら、Flytec がシリンダーに入ったと合図するまでさらに 150m 進んだ。なんでこの違いがあるのかわかっていれば往復 300m のシンクを飛ばずに済んだ。。
(その後 Flymaster はファームウェアのアップデートで FAI 球体にも対応した。)
何故 FAI は WGS84 に切り替えるのか?
あくまで想像ですが、距離飛行や速度記録を念頭に置いて、より正確な距離によって公式記録を公認したい、ということなのだと思います。以前は写真判定だったので距離飛行の場合は既存の記録を1%以上上回らなければならないというルールでしたが、現在はGPSの精度を反映して100m 以上の更新に変更されています。上述のように、何百km のフライトで 100m のスケールは FAI 球体を用いることによる誤差によっても容易に生ずる可能性があるため、放置しておけなかったのでしょう。
ハング競技への影響?
計算アルゴリズムについては全く詳しくありませんが、メルカトル図法のように平面投影したモデルで計算する方法だと、ハング/パラで飛ぶ範囲の距離では比較的シンプル且つかなり正確に計算できるようで、2014 の CIVL の総会で提案されたようです。これに近いアルゴリズムがフライト機器に搭載されるアプリに採用される(または既に採用されている)と思われます。ソフトウェアの開発がアクティブな機器であれば WGS84 での距離計算に対応できる道筋がついた、ということなのでしょう。
実際の所上述の Flymaster のように対応済のバリオもあるし。
Flytec も無くなってしまった現在 6030 のファームの今後のアップデートは考えにくいので、ビッグシリンダーが主流の環境では WGS84 完全移行とともにトップカテゴリーのコンペから消える日が来るのは避けられないんでしょうね。。
補足1:
ブラジリアを例に出しましたが、今年の世界選手権に影響があるという話ではありません(おそらくFAI球体が使われると思いますが、万が一これを読んでる関係者で気になる方がいたら自分で確認してください)。
補足2:
全ての GPS 機器は標準設定で WGS84 系での座標を表示します(日本向けモデルだと TOKYO2000 とかあるかもしれませんが)。但し、距離計算は WGS84 楕円体に基いているとは限りません。特にフライト用ではない iOS/Android アプリなどの場合、真球で計算していることが多いと想像されます。
補足3:
SeeYou でも距離計算でモデルが選べる ということを、今回初めて知りました。標準は WGS84 に設定されているから他のアプリでの計算結果と微妙に合わなかったのか。。。(注:ターンポイントのシリンダーのサイズもグライダー用に 500m なので、ここでも違いが出ます)。
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