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◆月夜の死闘(前編) (2016/3/10 19:14:51)
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不定期連載3つめは、空を飛んでいると誰もが経験する失敗談を
面白おかしくお話しいただく「私、やらかしました」シリーズです。
経験なのかネタなのか・・・ともかく、読んでおけばこの話はいつかきっと役に立つ!はず?
それでは、こちらも愛さんのほろ苦い経験談からスタートです!
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真冬の午後6時を過ぎた頃、大利根を日没と同時に離陸したFA200は熱海の上空に達するところでした。
前方には熱海の町の光と海岸線が見えます。目を熱海の先に転じると、見えるはずの十国峠の稜線が見えず、家や十国峠を走る車のライトも見えず、真っ暗になっています。
左席から「雲の上に出ますね」と言う報告と同時にスロットルが前に押し出されるのが見えました。これがこの後の約2時間半に渡る格闘の始まりでした。
私は歳の頃30歳を少し超えた、自信たっぷりの、どこから見ても「鼻持ちならない嫌な奴」と言った頃でしょうか。今思い出しても穴があったら入りたいと思うような時期でした。しかし、今になってそう思えるのであって、その当時は「自分が失敗するはずがない」「自分が行けば、なんとかなる」と思い込んでいた・・・・もう一度言いますね。「鼻持ちならない嫌な奴」でした。
その頃の夜間飛行訓練は日没と同時に大利根飛行場を離陸し、仙台か名古屋に行くことが多かった時代でした。若さと自信過剰ゆえ、伊豆半島が越えられず関東地方に帰った場合、降りるところが無い等とはみじんも感じていない時期でした。
3000ftから5000、6000ftを超え、結局8500ftで雲上飛行に・・・・月夜に照らされた雲は輝くように明るく輝いています。FA200に3人も乗って、そこそこ燃料も積んでいると、8500ftが精一杯で、雲のすぐ上を飛んでいる状況でした。
(エッ!? 雲の上からは300mはなれて飛ばなくちゃならないのでは??)
雲のかなり上を飛んでいる場合、行く先の雲の穴は比較的簡単に見ることができます。しかし、雲すれすれに飛んでいると、一面雲で、穴など見ることができません。
気楽に雲の上に出れば、すぐ前方は雲が切れ、沼津の灯が見えると期待していましたが、見えるのは月に反射した白い雲ばかりでした。
熱海上空で高度を上げ始めた時間が何時だったかも記録していません。せいぜい15分も我慢すれば、眼下に沼津が現れるはずと言うもくろみは見事に外れ、眼下は延々とした雲でした。
気持ちは焦り、のどはカラカラになっています。とうに沼津に到着している時間になっても雲は切れません。それから何分飛んだことか、今から考えればたぶん5分も飛んでいなかったのではないかと思います。
やっと大きな穴がありました。FA200で十分降下できる広さの穴でした。
地上を見たい一心でその穴からスパイラルダイブで真っ暗な穴の中に降下していきました。何旋転目か、雲の下は真っ暗で雨が降っています。下を見ると、町の光は一切なく真っ暗です。と、その時。搭乗者全員が山の稜線を真っ暗闇の中で見つけたんです。間髪入れずにフルパワーで上昇したのは言うまでもありません。
再度雲の上に出てから、いったいどこにいるんだ? 熱海からヘディング270から290度くらいで飛んでいたから、時間からして御前崎の西側にいるはず・・・しかし、5000ft級の山があったと言うことは、御前崎よりかなり北にいるんではないか? と思い、南下することにしました。
(結局、その時は伊豆半島の真ん中に居て、南下を続けていました。下田が発見できなければ太平洋一目散でした。後で解ったことですが・・・)
<文・中澤愛一郎>
それでは、次回もお楽しみに!