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◆言語化できないことを伝える (2016/3/10 19:15:36)
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※不定期連載シリーズ、続いては趣味で操縦を志した方たちが、
アレコレ自由に書き綴る「空飛ぶ人のひとりごと」シリーズです。
先日も記事を書いてくださった染中さんが、再び訓練にあたって
ちょっと参考になりそうな事を書いてくださいました。
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前回の記事もあわせてどうぞ→ ◆着陸のコツ?(2/5) by染中さん
「そこからスーっと引いて。もうちょっと!ここでクッと」
って、長嶋監督のアドバイスみたいですね。でも、体で覚えるような動作や操作を教わるときには、よく聞くような言い回しではないでしょうか?
日ごろインストラクターがトレイニーに伝えたい内容には、はっきり言語化できるものと、そうでないものがあります。
たとえば「水平飛行は2700rpm、130km/hピッチで」とか「ダウンウインドは900ftで飛んでください」と言えば、できるかどうかはともかく、
それははっきりと伝達可能です。しかし、フレアの感覚、旋回がつり合っている感覚、気流が剥離した不安定な感覚などを、言葉で厳密に伝えることはできません。
もちろん、フレアを理論的に説明することはできますし、「高度30ftになったら3秒で3度のピッチアップ」と言うことはできます。
だけど、それでフレアを「教えた」ことにはならない。肝心なのは、トレイニーにこれらの感覚を体で覚えてもらうことです。
このときに重要なのは、僕は、インストラクターの多様性だと考えています。
「体で覚える」(=無意識に、かつスムーズにできるようになる)ときにキーになるのは、ある操作に対する「表現」が、対象者にピンとくるかどうかです。
インストラクターも人間ですから、人によってさまざまな個性や表現があり、ある人の表現が全然理解できなくても、
別の人の言い方だと突如理解できたりすることがある。本人が気づかないうちに理解できている、ということだってあります。
これは、インストラクターの優劣とは関係ありません。
なので、トレイニーができるだけいろんなインストラクターと飛ぶほうが、気づきの機会は増えると考えています。
いや、トレイニーに限らず、ライセンスを持っている人も、たまには飛んだことが無い人といっしょに交代で操縦してみましょう。必ず、何か一つや二つは気がつくことがあると思います。
毎日々々鳥の唐揚げばかり食べてないで、ちゃんと、にんじんやほうれん草も食べないと、バランスの取れたパイロットにはなれません。
この話をするといつも思い出すのは、僕がトレイニーだったころの公平さんと言うインストラクターです。
グライダーでサーマリングを教わっていたときのこと、僕はとても不器用で、コンスタントな連続旋回を持続することができませんでした。
このとき、公平さんは、旋回の持続を「機関銃を腰ダメで撃つような感じ」と表現しました。そんな気になってやってみると、なんと、微妙なバンクのバランスと旋回のエイミング感覚が理解でき、結果的に連続旋回が安定したのです。
そもそも、僕は機関銃を撃ったことなどありません。公平さんだって、たぶん無いでしょう。
なのに、なぜそのような「言葉」が出たのか、なぜそれが僕に伝わったのか。まさにアートのような表現。
<文・染中俊雅>